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手術室
【流血シーンあり 観覧注意】
「伊織さん!梶!」
相良が駆け寄ると折り重なる2人の下から血溜まりが床の絨毯を大きく汚していく。
「はぁ‥‥あ‥‥」
言葉にならない桐栄は震えながら2人の体を抱きしめた。真っ白なバスローブはみるみる赤く染まっていく。
そんな4人を遠巻きに見守る人々ーーー
「誰‥‥か。誰か救急車を呼んで下さいっ!」
相良がそう言って桐栄を抱き起こした。
「やっ‥‥やぁ‥‥」
桐栄は離れたくないというふうに2人に手を伸ばす。
「桐栄さんっ!」
そんな桐栄を相良は抱き抱える。
「動かしては‥‥いけません」
そう相良が消え入りそうな声で言った。泣きじゃくる桐栄のバスローブの肩口が相良の涙で濡れていくのを感じた。
____________
「相良さん」
「‥‥‥と、桐栄さん。どうして?うちに送らせたのに」
「家でじっとなんかしていられません‥‥」
桐栄は着替えてから病院に現れた。
桐栄と相良は手術室の前でただ黙って長椅子に座っている。
口を開いたのは相良からだった。
「桐栄さん。お疲れになったでしょう。少し眠られては?やはりお家に送らせましょう」
「‥‥家に帰ってもとても眠れそうにありません」
「……では何か食べるものを買ってきます。何も食べていらっしゃらないでしょう?」
そう言って相良が立ち上がると桐栄は相良の腕を引いた。
「何も要りません。食べたくありません。ここに居て下さい。僕とここに‥‥」
相良は再び桐栄の隣に座った。
「どうして?どうして相良さんはそんなに普通にしていられるんです?か、梶さんし‥‥死んじゃうかも知れないんですよ?あんなにいっぱい‥‥いっぱい血が出て」
「‥‥桐栄さん。俺達はいつでも"死ぬ覚悟"は出来ているんです」
その言葉に桐栄は相良を見た。
「産まれた時から俺と梶は"若を守る事だけを考えろ"と親から躾られてきたんです。小さな時からどちらかが命を落とすような事があってもおかしかくない状況にありました」
相良は天井を仰ぎ見る。
「伊織さんは東原組の1人息子。特に小さな頃から危ない目に何度も遭われて‥‥。伊織さんの頬の傷‥‥あれもその時のものです。そしてこの……傷も」
相良はシャツの腕を捲ると自分の腕にある切り傷を見せた。
「昔、伊織さんと間違われて切られたものです」
「……」
「俺達はそういう中に生きてきました」
桐栄は伊織の体の古傷を思い出し下を向いた。
「あの方と過ごしていくと言う事はそういう事なのです。桐栄さん‥‥貴方にその覚悟はありますか?」
「……」
「あるのでしたらいいのですが……。もしないのなら今の時点で離れられた方がいいでしょう。今回の事で分かったとは思いますが、今後もこのような事がないとは言えません。よく‥‥お考えになって下さい」
そう言い終えた時、梶の方の手術室の電気が消えた。
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