第三章 オンラインお見舞い

1/1
前へ
/4ページ
次へ

第三章 オンラインお見舞い

 予約の一時間前には、航はリビングで母と一緒に待機をしていた。父も一緒にと思ったのだが、仕事の都合で難しく、今日は母と航だけが、オンラインでお見舞いをすることになった。  母がパソコンの電源を入れて、日本デジタル戦略的専門員会が各家庭に配布したソフトを立ち上げる。彼らにとって、オンラインの制度を進める中、様々なソフトを使うより、統一した方が国民をまとめやすいと思ったのだろう。  十七時から二分ほどして、病院からの連絡ですという通知画面が、パソコンに表示された。出るというボタンを押すと、入院部屋の様子を映しだした。そして、白衣を着た男が突然にゅっと顔を出す。 「どうも。石田さんの担当医である前川です。石田さんの家族の方でいいんですよね?」 「はい、そうです」 「えっと、今から石田さんをお見せしますね」  前川医師は、パソコンと繋がっているカメラを手に持ち、祖母のいるベッドの近くまで寄っていった。そのカメラには、人口呼吸器をつけた祖母が映る。母は、嗚咽で言葉をとぎらせながらも、祖母のことを何度も呼び続けた。  だが、数分すると、カメラ全体に再び前川医師の顔が映った。 「えっとですね、オンラインお見舞いの時間は決まっていまして、約三分なんですね」 「え、三分?」 「そうなんですよ。医者の人数は変わらず、オンラインで各ご家族の対応をしなくてはなりません。石田さんのあともたくさんの方が予約していますので、ご理解してください」 「そ、そんな……」 「それとですね。今から三十分後に人工呼吸器を外します。最近ルールが決まりまして、日本デジタル戦略的専門員会から導入されたITソフトが、医療従事者の労働削減として、年齢や地位、そして病気などを総合的に判断して、トリアージをすることが可能になりました。石田さんには申し訳ありませんが、回復させる必要はないとITが示していますので、ご理解ください」 「ふざけんな!」  あまりにもひどい話を、淡々と話す前川医師に腹が立ち、航は声を荒らげた。もし目の前にいたら、右手で思いっきり殴っていたかもしれない。 「まあまあ落ち着いてください。絶対死ぬわけではありませんから」 「なんてひどいの……」  母は、涙が止まらず、何度もハンカチでぬぐっていた。そんな母を前川医師はつまらなそうな顔で眺めている。 「では切りますね」  そう言うと、前川医師はオンライン電話を切ってしまった。  航は、泣いて嗚咽する母を見ているのがつらかった。そして一時間後に、病院から祖母が亡くなったという連絡が入った。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加