Kneel

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「夏生くん、おはよ〜!」 教室に入るとかけられる声にいつものように笑って軽く挨拶を返す。あれから数日、あの男子生徒と遭遇することもなく変わらない日常を過ごした。相変わらずまた寝不足の日々が続く。 「なんか顔色悪いな、大丈夫か?」 席についてぼーっとしてればそう声をかけられた。その声の主へと顔を向ければ、そいつは心配そうにこちらを見つめていた。 「おはよ、椿生(つばき)」 「おう。はよ」 前の席に座った椿生はすぐさま後ろを振り向いてこちらをじっと見つめる。 「なに?」 頬杖をついたままそう聞けば椿生は小さく溜息をつく。 「ほんと、お前結構顔色悪いぞ」 「そう?」 「なに、眠れてねぇの?」 「まぁ、そんなとこ」 そう言って机に突っ伏せば、椿生は大変だなぁなんて呟く。 「薬は?」 「……効かなくなった」 「まじか」 困ったように眉を下げ心配そうに俺を見る椿生に思わずフッと笑った。 「心配しなくていーよ。なんとかなるし」 無論、なんとかなる訳ない。宛もないし、そもそも抑制剤が効かないなんて困りものだ。パートナーを作るしかこの症状の改善方法はない。 「まぁ、あんま力にはなれねぇけどまじで困ったら言えよ」 椿生の言葉に軽く返事をすれば丁度チャイムが鳴った。疎らに席についていく生徒達と教室に入ってくる先生の姿を横目に、これからどうするべきかを考える。 椿生とは幼なじみでお互いのことをよく知ってるし、信頼もしてる。けれど確かに、椿生の言うとおり椿生は俺の力にはなれない。Usual(一般的)である椿生では俺の症状を改善することは実質不可能だ。Domにしかそれは出来ない。 抑制剤さえ利けば何も問題はないのに、本当に困った。稀にいるらしい、抑制剤の効かない人達。その極僅かに入ってしまった自分を嘆きたくなる。最もパートナーさえ居れば特に問題はないのだけれど、やはりあの日の記憶が邪魔をして今までどうしてもDomには近づけなかった。 保健室での出来事がやっぱり今でも信じられない。思い出すだけでもDomだということに怖さが湧いてくるのに、どうして、どうして。 胸の奥が、じわりとあの男子生徒の存在を求めていた。
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