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「そんな事より、タオル貸すから髪だけでも拭くかい?見ているだけで僕まで寒いしね」
「良いのか?」
「ああ、今日は使ってないからね」
頑張って平常を保ちながら私がカバンを開けると、その中には、友人に貰ったチョコとは別の不格好なラッピングのチョコが入ってあった。
私は、友人に言われた言葉を思い出しながらタオルを手に取ると、それと一緒にチョコをカバンの一番上に移動させて、ファスナーを閉めないまま彼の方に体を向ける。
「はいこれ」
「サンキュー」
彼はそんな私の決意なんて知らないようで、外の雨を見ながら何事もなさそうな表情をしていた。そんな中私は、勇気を振り絞って彼との話を続ける。
「そう言えば、今日バレンタインだったけどチョコはもらえたかい?」
「いやー俺には縁のない話だからな。お前は……ああ、渡す側か」
「僕は結局渡せてないんだけどね」
私は、彼が頭を拭いていて見えないことをいい事に、ガッツポーズをしていると、顔は見えないが、彼もまた私の言葉を聞いてクスクスと笑い始める。
「それは、残念だったな」
「そんな風に笑わなくていいじゃないか」
「すまんすまん。それより、あんたもバスをまってるの?」
私の精一杯の努力をそれよりで済ませてしまう彼に、少しムッとなってしまうが、私はどうも、そんな態度をされても彼が好きなようで、その笑顔一つで、私までどうでも良くなってしまう。
「僕は……そうだね、ただの雨宿りかな」
「へーでも、その傘あんたのじゃないの?」
彼はその言葉と共に、私の左隣にある傘を指さす。
「ああ、これは……多分誰かの忘れ物なんじゃないかな」
「ふーん。なるほどね」
彼は興味の無さそうに、もう一度外に目を送ってしまうが、彼が指摘したように、その傘は紛れも無く私の物で、恥ずかしくて彼と話せなかった私は、この時間が長く続くようにと、嘘をついてしまう。
「なら、少しの間話でも付き合ってよ」
彼から出て来たそんな意外な言葉に、私は心の中では驚きつつ平常に見えるように言葉を返した。
「そうだね、少しだけ話して居ようか」
私が、それに同意をすると、彼も笑ってそれに返してくれるが、直ぐに周りの雨の音が聞こえてくるほど静かになってしまう。
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