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「話は戻るが、君は甘いモノとか好きなの?」
私はどうにかチョコにつなげようと、沈黙の時間を途切れさせて、無理やり話を始める。
「うーん普通ぐらいかな」
「良かったらチョコ余ってるんだけど食べるかい?」
私がそれとなく、チョコを渡そうとすると、さっきまでどうでも良さそうにしていたのに、彼は急に真剣な顔になって私の目を見て話してくる。
「いや、本命が居るのにそんな事しちゃいけないだろ?」
その彼の言葉に、私は彼を好きになった理由を思い出してしまう。
「君のその少し古くて、しっかりしてる価値観が好きなんだった」
私が心の中で言ったと思っていた言葉は口に出てしまっていた様で、彼は咄嗟に私の顔を見つめてくる。
「えっと……」
彼の言葉で、やっと自分がその言葉を口にしてしまった事に、気が付いて、私は立ち上がってカバンを持って逃げようとする。
するとファスナーを開けたままにしていたカバンから、チョコレートが落ちてしまい、私は諦めるようにそれを拾い上げる。
「はぁ……ちゃんと渡したかったんだけどな」
「あのさ。俺、今、甘いモノ欲しいかも」
「え?」
彼は照れ臭くなったのか、私の方とは違う方に視線を向けたまま、私の疑問に答えるようにして話してくれる。
「そのチョコとか、貰えないかなって」
「でも……これ落ちちゃったやつだし」
「ベンチにちょっと落ちただけだろ!それくれないか?」
私がためらってそのチョコをカバンに直そうとすると、彼は少し怒ったように私の方に視線を戻して、そのあと落ち着いて私の方に手を伸ばしてくる。
「……うん。じゃあ、これ本命です」
「……ありがと」
私は彼の言葉を聞くと、居てもたっても居られなくなり傘を手に持って外に飛び出そうとする。
「おい!その傘」
「これは私のだよ!ちょっとでも話したくて嘘ついただけだから!」
私はそう叫ぶと、後ろを振り返ることなく傘を差して、バス停を出て行った。
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