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言えなかった二文字
今日も電話が鳴り響く。
「もしもし」
「川田美貴、22歳、病死。今すぐ迎えに行け。以上」
「はい、了解しました」
病死か、まだいい方だな。
時々すごいグロテスクな死体もあったりするからな。それだけは勘弁してほしい。そんな事を思いながら、この世へと降り立った。
その場所は殺風景な白い空間で、彼女は泣きながらベッドで寝ている自分を見つめていた。
「私、死んだの?」
「あ、あの、川田美貴さんですか?」
「あなたは?」
「俺は死神です。あなたを迎えに来ました」
「死神……か。やっぱり死んだんだ」
「はい、残念ながら。さぁ、一緒にあの世へ逝きましょう」
「ちょっと待って」
またこの人も未練があるのか?
「24時間以内に行かないと、成仏出来なくなります。だから、未練があるのならそれまでにお願いします」
「ふーん、そっか。死ぬって分かってたんだけどね!まさか、こんなに早いとは。まだ一緒に居れると思ってたのにな……」
「恋人ですか?」
「いや、ただの幼馴染なんだけどね。ねぇ、死神さん。私の声って生きてる人には届くの?」
「残念ながら、届きません。でも、最後に5分だけ誰かと話す事が出来ますよ。電話で」
「え?そうなの?あ、でも恥ずかしいからな。やっぱ話すのはやめた方がいいのかな。余計に悲しくなるかもしれないし」
「死神さん、最後に行きたい所があります」
彼女と一緒にあるアパートへと舞い降りた。
「ここね、その幼馴染が住んでる所なんだ。私が死んだ事聞いたかな?泣いてないといいけど」
二人で彼のドアをするりとすり抜け、部屋の中へと入る。奥のベッドで寝転んでいる彼を見つけ、彼女が歩み寄る。
彼はボーッとして天井を見つめて、なんか泣き疲れている様に見える。
彼女は愛しそうにその彼を見つめている。
きっと彼女は彼の事を好きなんだろう。死神にはそんな感情は分からないが、恋人と離れていく死者を何回か見たから何となく分かる。
「何で、どうして……死んじゃったんだよ、美貴のやつ」
「ごめんね、病気の事を秘密にしてて。だって言えるわけないじゃん。私の弱っていく姿なんて見て欲しくないし、透の前では可愛く居たかったんだも……」
彼女の涙は止まらない。
さっき病院から持ち出したメモ帳とペンで何かを書き始めた。彼への最後のメッセージだろうか。書いてはクシャクシャに丸め、書いてはまたクシャクシャに丸めている。次に書いたメモを彼の郵便受けへと入れた。
「もう、大丈夫です。さぁ死神さん、連れてって下さい」
「はい」
彼女には、悲しい後悔や未練がまだ残っている気がする。悲しいままあの世へ逝くのはきっと辛いだろうな。また俺はお節介をして聞いてしまった。
「あの、本当に電話で話さなくていいんですか?」
「あー私、本当にいくじなしだから、手紙で精一杯なんだ。ずっと側に居たのにね、言う機会なんていつでも合ったのにね……」
俺には恋なんて分からない。だからその苦しみや後悔は分からないけど、なるべくならその気持ちを少し楽にしてから、あの世へと逝ってもらいたいと思う。
「病気にならなかったら、いつか伝えられてたかな?いつ死ぬか分からない人に言われても、きっと透は困ったんだと思うんだ。優しいからさ。だから自分の気持ちも、病気の事も言わなかったんだ、ずっと……」
「俺には恋とか分からないんですが、本当にもう最後なんです。彼と話せるの。もう死んでしまったわけですし、別に隠す必要はないですよ。彼も手紙よりきっと言って欲しいと思います」
「……透が?」
美貴は思い出していた。私たちは、小さな時からずっとずっと一緒に居たんだ。知らない内に恋をしていて、でもこの関係が壊れるのが嫌で告白なんてしなかった。いつか伝えれたらなって思っている時に病気を知って、永遠に隠そうと思った。彼には幸せになって欲しいから。
もう隠す必要はないんだ。
「死神さん!最後に彼と話したい」
あの世へやってきた彼女は、急いで電話ボックスの扉を開けて受話器を握った。
「もしもし、透?私だよ、美貴だよ!」
「美貴?何で?!」
「死神さんが最後に電話をさせてくれて、今、透に掛けてるんだよ」
「死神?」
「えっと、時間がないから要件だけ言うよ。病気の事、黙っていてごめんね。透を悲しませくなかったら言わなかったんだ。それとね……」
「好きだ」
「……え?」
「たった二文字のメモ見たよ。俺も同じ気持ちだよ」
「透、バカ……今更、死んでからなんて遅いよ」
「ごめん」
「私も好き」
やっと言えた二文字。ずっと隠していた気持ち、ようやく伝える事が出来た。
お互いの気持ちをもう少し早く言っていたら、何か変わってたかな?私たち……。
でも、もう、遅いね。
「透、ありがとう。好きになってくれて。幸せになってね!バイバイ」
「美貴、ありがとう。ずっと側に居てくれて。お前の分も幸せになるよ。バイバイ」
ピーピーピー……
二人の最後の電話は途切れる。
「ありがとう、死神さん」
彼女のその笑顔はとても清々しかった。
そして、幸せそうに天へと昇っていった。
彼女を見ながら、胸がギュッと切なくなった。
俺もいつか恋なんてものをするのだろうか?
そんな事を思うのだった。
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