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普段、いい子なんだ。否、そう見えるだけで普通の子なんだ。普通の子から見れば、そうなんだ。しかし、僕から見れば、いじめっ子の一人に違いないんだ。そういう奴らがみんなして僕一人を苛めるんだ。仲間外れを恐れて多数派の空気を読んで迎合したり雷同したり妥協したりして同調してさ、その結果、寄って集って苛めるんだ。同調圧力に屈するんだな。だからみんな骨なしだよ。意気地なしだよ。卑怯者だよ。卑劣漢だよ。やり方が陰湿なんだ、兎に角。
でも、へらへらすることが時好に投ずるようになったから上辺はへらへらしてて明るく見せてるんだ。男がだ。男は三年に片頬という諺があるのにな。お父さんが言ってたけど、昔は無口でニヒルな男がいいとされていたそうだ。今なら駄目出しされそうだけど、僕もそれがいいと思う。レオナルド・ダ・ヴィンチがこんなことを言っている。古人を模倣することは、今人を模倣することより賞賛に値すると。だから僕は無口でニヒルな大人を目指して頑張ろうかななんて思っていると、益々異質になって苛められそうだな。実際、今日も苛められた。
以上のような内容の日記を母、多香子が読んでしまった。息子、弘和の学習机の抽斗を開けては中を調べていたら日記帳を見つけたのだ。
で、弘和が苛められていることを初めて知った多香子は、彼が中学校から帰宅すると、早速、彼を捕まえて問い質した。
「弘和、あなた、苛められてるの?」
「えっ」と弘和は声を出した途端、日記帳見られちゃったなと気づいて、「留守中に見るなんて卑怯だ!」と叫んだ。
「何言ってるの。お母さんは弘和のことを思って」
「ふん、いつもそれだ。僕のことなんか何にも分かってない癖に!」
「兎に角ねえ、時代の流れに逆らっていては駄目よ」
「僕はねえ、風見鶏でも海獺の皮でもないんだ」
「全く何、訳の分かんないこと言ってるの。兎に角、もっと朗らかにならなきゃ」
「面白くないことでも笑ってへらへらしろって言うのか!」
「そんなこと言ってるんじゃないわよ」
「じゃあ相手に気に入られようと無理に笑えって言うのか!」
「そんなことを言ってるのでもないって」
「言ってるわ!」と弘和は言い切って多香子を軽蔑の眼で睨みつけた。「生憎、僕はお母さんみたいに損得勘定して生きてないんでお母さんのようにお為ごかしに愛想よく出来ないよ」
「ほんとに屁理屈ばかり言って困った子だわ。素直に明るくなれるよう努力しなきゃ」
「煩い!黙れ!」
「親に向かって何てこと言うの」
「お母さんは僕の言いたいことが何にも分からないんだ!」
叫んだ勢いで弘和はぷいと多香子の前を離れた。
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