8.消えた五十両、士道のかたち

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 だが三人は、「そうは言われましても……」とうなだれるだけだった。 「私たちは、確かに河合さんと飲みにでかけましたが、潰れた河合さんを屯所まで送り届けたあと、三人で飲み直しに出たんです」  大橋はそう告げた。他の二人もこくこくと頷いた。  これはどうやら本当だったらしい。飲み屋の女将の証言も得た。そう考えると、時間的制約から考えて、三人が盗んだとは考えにくい。  むしろ、同室の隊士らが巡察に出ていたりしていたことで河合が一人で寝ている状態になり、屯所にいた全員が疑わしいという状況になってしまった。 「いったん、全員の持ち物を検めよう。それと、最近この辺で派手な金遣いをしたやつがいないか聞き込みだ。高価なものを買ったとか、遊女を身請けしたとか」  さくらの号令で、大規模な捜索が始まった。現在大坂に駐屯している井上(三番)隊と(七番)隊を除くすべての隊士が対象となった。そして、巡察に出る隊は(身内の不祥事を追っている、では外聞が悪いので)強請(ゆす)りを働いた浪士を追っているからと、商家を回って大金を使った者はいなかったかどうか詳細に聞いていった。
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