8.消えた五十両、士道のかたち

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 結局、盗っ人が捕まることも、飛脚が来ることも終ぞなく、その時は来てしまった。  抜けるような青空のもと、白と浅葱の切腹裃に身を包んだ河合は、悲痛な面持ちで正面に鎮座する歳三、さくら、他の隊長たちを見た。 「飛脚は、まだ、来おへんのですか……? 島崎先生、下手人の手掛かりは……?」  さくらは首を横に振ると 「……すまない」  と、絞り出すように言った。 「河合。往生際が悪い」  歳三の一言に、河合はおそるおそる、目の前に置かれた短刀を手に取った。  それを、ゆっくりと腹に向けた。  瞬間、介錯の刃が振り下ろされた。 「うわああ!」  振り下ろされるのと、怖気づいた河合が立ち上がり、よろよろと走り出すのは同時だった。振り向きざま、痛みに呻く河合の喉にさらに一突き。それは、およそ切腹とは言い難い、武士としてはなんとも粗末で、哀れな最期だった。  五十両を携えた飛脚が到着したのは、翌々日のことである。
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