142人が本棚に入れています
本棚に追加
結局、盗っ人が捕まることも、飛脚が来ることも終ぞなく、その時は来てしまった。
抜けるような青空のもと、白と浅葱の切腹裃に身を包んだ河合は、悲痛な面持ちで正面に鎮座する歳三、さくら、他の隊長たちを見た。
「飛脚は、まだ、来おへんのですか……? 島崎先生、下手人の手掛かりは……?」
さくらは首を横に振ると
「……すまない」
と、絞り出すように言った。
「河合。往生際が悪い」
歳三の一言に、河合はおそるおそる、目の前に置かれた短刀を手に取った。
それを、ゆっくりと腹に向けた。
瞬間、介錯の刃が振り下ろされた。
「うわああ!」
振り下ろされるのと、怖気づいた河合が立ち上がり、よろよろと走り出すのは同時だった。振り向きざま、痛みに呻く河合の喉にさらに一突き。それは、およそ切腹とは言い難い、武士としてはなんとも粗末で、哀れな最期だった。
五十両を携えた飛脚が到着したのは、翌々日のことである。
最初のコメントを投稿しよう!