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そんなただでさえ忙しいという中で、さくらと歳三はとある客人と相対せねばならなかった。
河合の父親とその付き人が屯所に殴り込みをかけてきたのである。
「なんでや! なんでもう二、三日待たれへんかったんや!」
「ああ、耆三郎坊ちゃん、なんちゅうむごたらしい……」
さめざめと泣き崩れる二人を前に、さくらと歳三は苦笑いを漏らした。しかし、ここは心を鬼にしなければならない。
「理由はどうあれ、勘定を預かる者が隊の金を紛失し、期限までに落とし前をつけられなかったのです。これは、法度にもある『士道に背くまじきこと』にあたるものですゆえ」
歳三はきっぱりと、無表情で告げた。
「そうかといってあまりに殺生やないですか。それにや、なんで五十両を盗ったやつの腹を切らせんのや。こないなこと、絶対におかしいわ!」
だが、父親が泣こうが喚こうが、河合が生き返るわけではない。ひとしきり罵詈雑言を浴びせたのち、気が済んだのか、埒が明かないことに気づいたのか、最後にこう言い残して帰っていった。
「遺骸は、こっちで引き取りますよって。耆三郎のために立派な墓を立ててやらんとなあ」
残されたさくらと歳三は、大きく嘆息した。
「こんな時に限って、勇とか、伊東さんとか、源兄ぃとか、こう、人当たりよくかわせる面子がいないんだものなあ」
「しょうがねえだろ」
「あるいは……山南さんだったら、丸く収めてくれたのかもしれないなあ」
「はっ、それこそ言ってもしょうがねえこった」
歳三は苛々したようにガバッと立ち上がると、部屋を出ていった。
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