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その時、足音がした。見ると、そこには険しい顔をした歳三が立っていた。聞かれていただろうか。なぜ声に出して墓石に語りかけてしまったのかと、さくらはひどく後悔した。歳三から顔を背ける。そのまま、尋ねた。
「どうしたんだ。何か、急用か……?」
さくらの問いに、歳三は否、と答えたかと思うと、隣にどっかりと腰を下ろした。
「今日ぐれえ、来てみようかと思っただけだ」
「……そっか」
さくらは、そうっと歳三を見た。涼しい顔をしている。さくらのひとりごとを聞いていたのかいないのか、どちらにせよ気には留めていないようだった。
二人は、黙って墓石を見つめた。サアッと吹き抜ける風に意識を向ければ、「もう春だなあ」とぼんやり実感する。
「河合の墓、壬生寺にでっかいのを建てるらしい」
歳三が、おもむろに言った。
「俺は……正直言って、あの五日間で小川のことがわからなかったのも、五十両がこなかったのも、よかった、って思っちまった」
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