9.墓前にて

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 その時、足音がした。見ると、そこには険しい顔をした歳三が立っていた。聞かれていただろうか。なぜ声に出して墓石に語りかけてしまったのかと、さくらはひどく後悔した。歳三から顔を背ける。そのまま、尋ねた。 「どうしたんだ。何か、急用か……?」  さくらの問いに、歳三は否、と答えたかと思うと、隣にどっかりと腰を下ろした。  「今日ぐれえ、来てみようかと思っただけだ」 「……そっか」  さくらは、そうっと歳三を見た。涼しい顔をしている。さくらのひとりごとを聞いていたのかいないのか、どちらにせよ気には留めていないようだった。  二人は、黙って墓石を見つめた。サアッと吹き抜ける風に意識を向ければ、「もう春だなあ」とぼんやり実感する。  「河合の墓、壬生寺にでっかいのを建てるらしい」  歳三が、おもむろに言った。 「俺は……正直言って、あの五日間で小川のことがわからなかったのも、五十両がこなかったのも、よかった、って思っちまった」
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