9.墓前にて

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 山南の墓石に向かって漏らした愚痴。やっぱり聞いていたんじゃないか、とさくらは苦笑いした。それでも、胸がじんわりと温かくなるような、嬉しさが勝った。歳三はまだ自分を監察として引き立ててくれようとしている。  「もちろんだ。ここで降りたら、私の士道が廃るというもの」 「……そうか」 「うん……まあ、その、なんだ、ありがとう」  さくらの照れ臭そうな言い方が伝播したのか、歳三も目を逸らして「お、おう」と小さく言った。そして、ゆっくりと立ちあがった。手にしていた供花を無造作に墓前へと供える。 「……ふふ、山南さん喜んでるんじゃないか。歳三が花を持ってくるなんて。そうだ。来月は桜の花でも供えられるかな。遅咲きのやつなら、ちょうど旬を迎えるだろうし」 「まだ、続けるのか」 「何が」 「……サンナンさんの墓参りは、もうやめろ。せめて……次は来年の今日」 「な、なんでそんなこと歳三に決められなければならんのだ……! だいたい、失礼だろう、山南さんの墓前でそんなことを!」  さくらはガバッと立ち上がり、歳三を睨みつけた。
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