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「忘れろとは言わねえよ。サンナンさんのことがあるから、俺は今後も一切の例外を認めねえし、もう、情にも流されねえ。だが、お前の場合は、それだけじゃねえだろ」
「なっ……」
さくらは、さっと顔を赤らめた。
実を言えば、ここ最近はもう自分でもよくわからなくなっていた。毎月山南の墓を訪れてしまうのは、罪悪感なのか、恋慕なのか、単なる寂しさなのか。だが、この世にいない人を恋い慕ったところで、虚しさしかない。それだけはわかっていた。ゆえに、無理矢理考えないようにしていた。月に一度だけ、生前の笑顔と、声を、思い出す。ただ、それだけ。
だが、それを歳三にうまく説明できる気もしないし、するのもなんだか癪だった。
「サンナンさんは、もういないんだ。いくら未練を募らせたところで、一生報われねえんだぞ」
「そんなの、お前に言われる筋合い……!」
ビクっとして言葉を止めたのは、歳三に腕を掴まれたからだけではない。
歳三の手の熱が伝わってくるのを感じながら、さくらはその目から視線を外せないでいた。
――なんだ、その目は。
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