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こんなに歳三の目を真正面から見たのはいつぶりであろうか。きらきらと澄んでいて、その奥には底知れぬ野心が光っていて。そういえば、それは江戸にいた頃から変わらない気がする。でも少しだけ違うのは、やや憂いを帯びるようになったことだろうか。
――こんなに、綺麗な顔をしていたのだっけ。
「俺は、俺はもう……」
「あ! 先客がいると思ったら! やっぱり今日は皆さん来ますよねえ!」
パッと歳三は手を離した。声の方を見やると、平助が水桶と供花を手にこちらに近づいてきた。
「ご一緒していいですか」
「あ、ああ……」
「俺はもう行く。平助。五番隊は夕方から巡察だろ。忘れんなよ」
「土方さんに言われなくても、さすがに忘れませんて」
それもそうだな、と言うと歳三は二人を残して足早に立ち去っていった。背を向けた歳三の耳が赤くなっているのに、さくらは気づいた。その姿から、なぜかしばらく目が離せなかった。
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