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――サンナンさん、なぜ死んだ。
歳三は墓地のある光縁寺を出ると、足早に屯所とは反対方向に向かった。
――さくらの気持ちのやり処がねえじゃねえか。あいつの心に、一生住み続ける気か。
かつて、さくらは山南と「どうこうなりたいと思っているわけではない」と言っていた。
歳三も、同じだった。どうこうなりたいと思っているわけではなかった。
それでも、気持ちというのは、確かにあるのだ。
山南がいなくなってからというもの、押さえ込んでいたものが徐々に出てきそうになるのを、都度、歳三は見ぬ振りをしていた。
――サンナンさんを切腹させたのは、脱走したからだ。
それ以上でも、以下でもなかった。そこには一分の隙もあってはならない。さくらの想い人を、疎ましく思った。塵ほども、それは理由になってはいけない。誰にもそう思われてはいけない。自分だって、思ってはいけない。
だから、これからも、歳三のやることは変わらない。
――それでも、あいつのあんな顔、俺はもう見たくない。
山南の墓石を見つめる、さくらの優しげな、それでいて切なくもの悲しい眼差しが、脳裏によぎった。
あそこで平助が来ていなかったら、自分は何を口走ってしまっていたのだろう。
ぶるりと身震いした。平助には、感謝しなければ。
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