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土間の方から、ガタガタと騒々しい音がするので、菊は針仕事の手を止めた。
「島崎はん?」
確か、今日は夕方来ると言っていたはずだ。少し早いがそれならそれで夕餉の支度をしなければ。立ち上がって土間の方へ向かおうとすると、足早に歳三が部屋に入ってきた。
「土方はん……? どないしたんどすか」
歳三は何も言わず、菊を力いっぱい抱きしめた。
「土方はん、く、苦しおす……」
「わりい」
だが歳三は、言葉とは裏腹に菊を解放する気はさらさらないようである。乱暴に、菊の唇に自身の唇を押し付ける。角度を変えて、何度も落とされる口づけに、立っている菊の力が抜けていく。
菊が歳三に組み敷かれるのに、そう時間はかからなかった。
「土方はん、そこ、お針仕事残ってるさかい、危ないっ……」
構うもんか、と言わんばかりに再び口を塞がれる。菊はふっと笑みを零すと、それを受け入れた。
――島崎はんと、何かあったんやろか。
なんでもいい。歳三が求めてくれるなら。理由など、どうでもよかった。
――こうしている間だけは、土方はんはうちのもんや。心がどこにあったとしても、今は、うちのもんや。
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