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「島崎はん。どないしたんどすか?」
出迎えた菊の驚いたような顔を見て、さくらの方が面食らってしまった。
「どうって、今日はもともと来るつもりで……」
「そうやなくて。その顔のことや」
顔? と目をぱちくりさせると、さくらは菊の言った意味がわかった。頬を、涙が伝っている。
「ああ……はは、目にゴミでも入ったかな。お菊さん、悪いけど、お茶を淹れてもらっていいですか」
言うが早いか、さくらは自室として使っている小部屋に引っ込んだ。まだ拭っていなかった涙を、乱暴に袖でこする。涙の理由は、自分でもわからなかった。
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