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「あれま。ほなちょうどよかったわあ。お武家さま、この辺のお人やあらへんのどすか?」
「ああ。大坂から用向きで来とるんや」
「そやったんどすか。ほな、お言葉に甘えて。よろしゅうお頼申します」
女は手ぬぐいを男に渡した。男はそれを受け取ると、ほな、と言って去っていった。
声が聞こえないところまで男との距離が空いたところで、女は低い声で呼びかけた。
「総司」
「はい」
すぐ横の路地裏から、ぬっと出てきたのは沖田総司。会津藩御預の浪士集団・新選組の一番隊を束ねる。二人は決して顔を見合わせずにそのまま話した。
「聞いていたな。あの男で間違いなさそうだ。井上隊に知らせて体制を整えろ。私はもう少し奴を見張る」
「承知しました」
総司が姿を消すと、女――近藤さくらは、再び男の後ろをつけて歩いた。するとどこからともなく、配下の山崎丞が現れて、さくらとつかず離れずの距離を保ちながら歩き始めた。さくらは進行方向を向いたまま小さな声で言った。
「どや。なかなか言葉使い上達したと思わへんか」
「なんや遊女っぽいですけどねえ、まあええんやないですか」
「そら仕方あらへんわ。島原は木津屋仕込みの言葉使いやさけ」
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