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相手は将軍だ。面を上げよと言われたところで、本当にがばっと顔をあげるわけにはいかない。さくら達は「ははぁっ」と返事をし、視線は畳に落としたまま僅かに体を起こした。
「ふむ。まあ、そのまま聞くがよい」
これが将軍の声なのだ。さくら達と同年代だという慶喜の声は、若々しさの中にも深い落ち着きがあった。
さくらは信じられなかった。非公式とはいえ、今自分たちは将軍に謁見している。四年前、こんなことが想像できただろうか。
もう、十分じゃないか。今日この場でどんな沙汰が降りようと、一介の浪人が将軍に相まみえたのだと、その誇りを胸に死んでいける。さくらは、腹をくくった。
「そなたらの働きぶりは余の耳にも聞こえておる。肥後守を助け、よくやっておるそうだな」
「ははっ、ありがたきお言葉、痛み入ります」
勇が代表して返事をした。その声は僅かに震えており、勇も同じ気持ちなのだろうとさくらは思った。
「そこでだ。単刀直入に申すが、新選組の者らを、幕臣として取り立てようと思う」
一瞬の沈黙。勇が身じろぎする音がやけに大きく聞こえた。
「今、なんと、仰せになりましたか」
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