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勇はさくらの思ったことを代弁した。思わず顔を上げてしまったようで、「近藤、頭が高いぞ」と容保にたしなめられる始末だった。
「肥後守、構わぬ。三人とも、余にしかと顔を見せい」
三人は、おずおずと顔をあげた。正面に座っていたのは、品と貫禄を兼ね備えた、まさしく将軍その人であった。
「今申した通り。そなたらは、誠の侍になるのだ。余の手足となり、幕府を支えて欲しい」
「それは、誠にございますか」
「近藤。何度も言わせるでない。余が嘘をつくと申すか」
「いえ、滅相もございません」
「……そうじゃのう。嘘というわけではないが、正式に沙汰する前に、ひとつ聞かせよ」
慶喜はすっと立ち上がると、一歩、二歩、ゆっくりと三人に近づいてきた。あまりの恐れ多さに、三人は再び視線を畳に落とした。
「……島崎というのは、そなたか」
勇の後ろにはさくらと歳三が横に並んでいたというのに、慶喜は迷うことなくどちらがさくらかわかったようだ。その声は、明らかにさくらに向けられていた。
「はっ、いかにも。左様にございます」
さくらは震える声で返事をした。将軍が、自分の名を呼んだ。
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