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「女子であるというのは真か」
一瞬でも、幕臣に、名実ともに武士になれるのだと、舞い上がった自分が愚かだった。慶喜はとっくに知っていたのだ。会津藩にも、見廻組にも知られている。慶喜の耳に入らないという保証など、どこにもなかったのに。
「仰せの通りでございます」
さくらは、正直に答えた。
――ここまでか。私は、私だけは、女であるからという理由で、切腹を言い渡されるのだ。勇たちの足を引っ張るわけにもいかぬ。私ひとりの命で勇たちが幕臣になれるなら……
「面をあげよ、島崎」
さくらは黙り込み、微動だにしなかった。慶喜がもう一度「面をあげよと言っておる」と言うので、さくらは顔を上げた。想像よりも近くにきていた慶喜に、さくらはどきりとしたが、つとめて冷静を装った。
「何の因果かは知らぬが、女子が頭を剃って裃を身に着け、将軍の面前まで来るとはのう。世の中にはまだまだ余の知らぬ驚くべきことがあるというものじゃ」
なんと返答したらいいかわからず、さくらは「ははっ」とお辞儀をするにとどまった。
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