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「ふむ。それでは余とそう変わらぬ歳じゃな。ならば尚のこと。猫も杓子も『身命を賭して』などと申すがのう。その意気はともかく、本当に皆が死んでしまっては、余に仕える者はいなくなってしまう。余は、ひとりでも多くの者に生きて日の本のために尽くして欲しいのじゃ」
そういう考え方もあるのか、とさくらは感心してしまった。畳みかけるように、慶喜は言葉を続ける。
「どうじゃ。そなたは、幕臣として最期まで余のために働くと誓えるか」
「は、……御意のままに。島崎朔太郎、この命続く限り公方様のため、日の本のために働く所存にございます」
「島崎」
再び名を呼ばれ、さくらは思わず顔をあげてしまった。まずい、と思った時にはすでに遅し。慶喜としっかり目が合ってしまった。
「それでよい。そなたは、よい目をしておる。大なり小なり、この国は変わる。以前と同じような世の中には戻らぬであろう。その新しき時代には、そちのような者にいて欲しいのじゃ」
「もったいなきお言葉。恐悦至極に存じます」
「近藤も土方も、今の話をしかと肝に銘じておくのだぞ」
「は、ははあっ」
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