3 コスモスの家

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診察に訪れる時も、 お葉は派手で安っぽい《銘仙》などを 着ていることはなかった。 絣か、いかにも重たげな《お召し縮緬》の 地味な色目だが 柄ゆきの大きなものを纏っていた。 普段、家にいるときも 《お召し》を着ているのだろうか。 それとも、これから どこかに出かける予定なのか… 或いは誰かが尋ねてくるのか… 先生は 胸がチクチクとし コートのポケットの中で 指先がひんやりした。 お葉は、着物の上には羽織ではなく これは、いかにも気どらない 別珍の《袖なし》を着ていた。 その色が、なんとも言えない… こっくりとした赤葡萄酒色だった。 秋色の庭に置くと 豊かに実った果実のように もしくは柘榴石(ルビー)のように 瑞々(みずみず)しく、美しい。 ブラブラさせている足にも 《袖なし》と同じ赤葡萄酒色の 別珍の足袋をはいている。 それが、 着物の裾と足袋の間の脛の白さを 際立たせていた。 例の、虚ろな視線を漂わせ 足をブラブラさせて 「日向ぼっこ」している様は 着ぶくれた雪国の少女を思わせた。 先生は、 まだ庄内にいたころの 少女のお葉を垣間見た気がして 今度は急に胸が温かくなり ほたほたと頰が緩むのだった。
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