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■パパ(7時58分)
またやってしまった――目を覚ましてスマホの時計を見てうめいた。また寝坊してしまった。アラームをかけているのに、いつのまにか指が止めてしまう、らしい。
といっても会社に遅刻するわけじゃない。なぜなら俺は出社する必要が無いからだ。最近当たり前になったリモートワークのおかげと言いたいが、自分で決めた時間に起きられなかったのが情けない。
部屋は入り込む日差しで明るく、とても静かだった。ママはもう家にないだろう。あいつのパートは朝の時間帯だし、出かける時間が早い。それに子供を保育園に連れて行かなくちゃならないから。
部屋を出て居間に向かう途中、長男の部屋からいびきが聞こえた。朝までのバイトで疲れているに違いない。今日は授業があるって言ってたから、ちゃんと起こしてあげないといけない。あいつの方が俺よりも働き者だと思った。
リビングのテーブルの上には、すでに朝食が用意されていた。朝は忙しいから起きて手伝うよ。そう言ったのは自分だった。だからそれを見ると心が痛んだ。
自宅で仕事をするようになったら、逆に負担が増えた。それでも必ず定時で業務を切り上げ、家族と過ごす時間を取るようにした。そうして皆が寝静まったあとにベッドを出て、残務をこなしていた。こっそりやっていたつもりだったがママには、ばれていた。
お前が起きる時間に起こしてくれよなと、何度も頼んでいた。けれどあいつは絶対にそうしない。ママの気遣いと優しさに甘えつつ、俺は心の中で「すまない」と謝った。
ため息をついてテレビを点ける。いつも見る情報番組はもう終わりかけで、最後の方にやる全国の天気予報が映っていた。今日も一日、雨の心配が無いと聞いてほっとする。
早めに洗濯機を回すことが、俺の今日の最初の仕事だと決めた。
でもその前に、やることがある。体重が気になってから始めた朝のジョギングの時間だ。俺はパジャマを脱ぐと、ママが用意してくれた上下のジャージに着替えた。
そんなに長く出かけるわけじゃないから、部屋の明かりは消さなかった。点けっぱなしのテレビから、占いの結果といつものエンディングテーマが流れてきた。フィナーレにキャスターたち全員が視聴者に手を振ってくれる。
これを待っていた。
俺のなかでワクワクが止まらない。今日が始まろうとしている。どうしてかわからないが、そのラストの音楽聞くと、俺の1日のスイッチが入る気がするんだ。
新調したランニングシューズの靴紐を固く締めれば、準備は終わり。玄関の扉が閉まると、俺は空を仰いだ。
「おはよう。行ってきます」
(すれ違っても、想い愛 おわり)
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