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私は宿屋のベッドに座ったまま両手を太ももの間に挟む。深い紫色をしたビキニアーマーも、戦場では勇ましいが、イサークに怒られていたら何の迫力もない。
「酒を飲むヤツじゃないだろ。お前は」
小さくなる私の前で、イサークは二回目の溜め息をついた。胸の前で組んだ片方の手で眉間の皺を押さえる。
イサークの言う通りだ。飲まないとやっていられないというものの、二十歳の私は人生でお酒を飲んだのは指で数えるぐらいだ。苦いばかりのビールもこの日だけはたらふく飲んでみたいと思ったのよ。
「飲みたい時もあるの!」
「……」
私が子供の様にわめくとイサークに無言で睨まれた。
イサークは長身の男だ。硬質の黒髪は襟足が長くはねている。長めの前髪から覗く黒い瞳は鋭い。射貫かれたら思わず心臓を直接掴まれた気分になる。
イサークは無言で、ズボンのポケットから長さ十センチにも満たないガラスの瓶を取り出し、ベッド側のテーブルに置く。一見女性の香水のボトルに見えるがこれが全然違うらしい。
「お前の隣に座っていた男から取り上げた瓶だ。後一滴残っている。これは強力な媚薬だ。俺も見るのは久し振りだ」
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