劇的な変化を求めたあの日

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 霧島葵を守る。  それが今の私の役目であり、仕事である。  霧島葵が矢吹琴子に誘拐され、監禁されたことは衝撃的だったが、それでも助けることはできた。彼のおかげで。  問題は、なぜか過去の世界へ来てしまったのか、ということだ。  過去の世界に来た途端に、矢吹に監禁されてしまったことは、正直に言って痛くも痒くもない。逃げられることは分かっていたからだ。それでも、未来に戻れないというのは、正直に言ってきついものである。  不思議なもので、過去の世界に来ている者は全員ではない。霧島の両親は未来、つまり元々の世界にいるし、恐らく矢吹や霧島以外のクラスメイトは、こっちの世界に来ていないのだろう。  いや、来ていなくていいのだが。  これ以上、話をややこしくされたら、たまったものじゃない。ただでさえ、ややこしいというのだから。  ーーそう言えば、過去の私は、学校生活を退屈しているみたいだったな。  過去の自分を見て思う。  自分もあんな感じだったのかと思い、苦笑した。  全てを諦め、全てに絶望し、あんな狭い中で楽しくやれている他の人間のことを、不快に思っている瞳。つまらないと思いながらも、学校生活を続け、何か劇的な変化を求めていた。  私の場合、その変化が現れたのは大学一年生のとき。  けれど、未来が変わったことで、過去の私にとっての劇的な変化が、あの瞬間になった。 「それにしても……過去の自分の理解力の早さには、内心驚いたっけな」  過去の自分も他の子同様に、動けなくなったりなんなりとするのかと思っていたが、そんなことはなかった。怖いと思うほどに、適応力があった。  過去の自分は、あんなに瞬時に状況を見極められただろうか?   いや、無理だな。  私は断定する。  それができていたら、孤立なんてしていなかっただろうから。そもそも、過去の世界へ行けるとは、どういう原理なのだろうか。あの時は過去の矢吹が鬱陶しくて、聞く耳を持たなかったが、よくよく考えたらそうだ。意味が分からない。  過去があって今がある。それは分かる。  過去へ行ければ未来を変えることができる。それも分かる。なら、なぜ私たちだけなんだ?  私たちが意図して過去に来たわけじゃない。  誰かに意図して過去に連れてこられた。  そう考えるのが妥当だと私は思う。  けれど、それだと疑問が生じてしまう。  一体なぜ? 何が目的でそんなことをーー?  だから、あの時に蓬莱彩芽が矢吹を制してくれて助かった。あのまま言い寄られていたら、確実にボロを出していた。答えられなかった。 「どうして過去へ来たのか。そんなことを言われても困るけど、まあ、普通はそうなるよね。それであんなものを見せられてしまったら、流石にねえ。訊ねたくて体がうずうずしちゃうだろうね」  なんか、気色の悪い言い方になってしまった気がする。 「……喫茶店か」  今日一日、自由な時間をもらったことだし、少し休むかぁ。  私はそのまま、喫茶店へと足を運んだ。きょろきょろと席を探していた時、1人の女性に目が止まった。 「もしかして、あの子……」  私はそのまま近付いた。  それから言った。 「もしかして……過去の私?」
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