劇的な変化を求めたあの日

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「あれ? 未来の私……?」  過去の私と未来の私。  その言い方はどうだろうかとお互いに思う。 「相席してもいい?」 「え? ああ、もちろんいいですよ」 「ありがとう」  にこりと笑った朝霧はテーブルの上に置かれたメニューを手に取りぱらぱらめくる。視線をそこに落としたまま続けた。 「あの日はありがとう」 「……特に何もしていませんがーー」  何に対してのありがとうか分からず、首を傾げた。 「あの日、血を拭くの手伝ってくれたでしょう?」 「ああ」  そんなこともあったなと頷く。 「助かったよ。君がいてくれなかったら、一人で掃除をしている痛い人間だった」  折りよくウェイターが運んできた氷の多い水を口に運びながら、顔をあげる。 「アイスティーをお願いします」  と注文。ウェイターは頭を下げてその場を去った。 「いや、私は当然のことをしただけなので」  自分のことを謙遜しようとは思いたくないが、それでもそれは誇れることではないと思った。 「ふふふ。自分に自信がないんだね」  カッと顔が赤くなる。まるで見透かされたような気分だ。未来の自分なのだから、自分のことが分かることに違和感はないが、それでも何か嫌だった。まるで秘密を握られているかのような感覚に陥る。 「ごめん、ごめん。意地悪をしたね。そんな顔をしないで。ただ過去の自分もそんな感じだったなと思って口にしただけだから」 「朝霧さん……も、自分に自信がなかったんですか?」  私は未来の自分のことを朝霧さんと呼ぶことにした。流石に自分と言えど、呼び捨てにすることはできない。 「そうだね。自分に自信なんてないよ。今も昔もさ。自信なんてないまま、この歳まで生きちゃったの」 「朝霧さんって幾つなんですか?」 「歳? 私は24だよ。君は高校1年生だよね? なら歳は……16かな?」 「そうです。何か16年も生きちゃってます」 「8歳差かぁ。そう聞くともう私なんておばちゃんだねぇ」  くくく、と朝霧は笑った。
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