劇的な変化を求めたあの日

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 一方その頃、喫茶店を出た朝霧は、深い溜息を吐いた。 「せっかく紫と楽しく会話をしていたのに……」  1人ごちる朝霧の怒りの矛先は、メールを送った相手ではなかった。メールを送らせることになった相手に対して、朝霧は怒っていた。 「あいつはどれだけ、私のことを困らせれば気が済むんだ!?」  突然大声で言った朝霧に、周りの人間はチラチラと見る。けれど、今の朝霧には、そんな視線をどうとも思わないほどに、怒りで支配されていた。ズカズカと大股で歩いていく。  こうも人が多いと、周りに当たり散らしたくなる。それを必死に抑えているのだから、多少大声を出すのを許して欲しい。  誰かに何かを言われたわけでは無いのに、そんなことを思う。  朝霧は再び、メールに視線を落とす。  メールに書かれていた内容は、本当にメールを送った相手は悪くない。いや、少しだけ悪いのかもしれない。その時の状況を見ていないから何とも言えないが、内容だけでは悪くはないと思う。  メールの内容はこうだ。 『ーー紫、すまない。少しだけ問題が起きた。もし帰って来れるなら、帰ってきてほしい。すまない。休んでいいよと言っておきながら、紫に迷惑をかけてしまうことになって』  彼らしいと朝霧は思う。  彼は何も悪くないのに、なぜここまで謝るのだろう? 一時的でも、見ていてくれて助かったというのに。メールには続きがあった。 『少しだけ問題が起きたというのは霧島葵についてだ。ちょっと煩かったから、静かにしてもらおうと思ったら、泣き出してしまった。俺がいけなかったのかもしれないが、こういう時にどうすれば良いのか分からない。もし可能なら、助けて欲しい』  間接に述べられてはいるが、恐らく相当焦っている。書かれてはいないが、文字の後ろに度々汗マークと困った顔文字が見える。 「可愛いなぁ」  思わず呟く。  怒りで一杯になっていたはずなのに、この可愛さだけで解消される。  解消されるのだがーー  そんな彼を困らせる霧島葵に、腹が立った。  私に人生を壊すだけならまだいい。  けれど、そこに彼を巻き込むのなら、話は別だ。  矢吹琴子と離れて、少しは大人しくなったかと思ったが、どうやらそうではないらしい。 「ふふふ。相当地獄を見ないと気が済まないようだね」  にやりと悪魔のような笑みを浮かべた朝霧だったが、それも一瞬で引っ込んだ。  家の近くまで来ると、誰かが泣いている声が聞こえる。その声を聞く限り、霧島で間違いないだろう。 「本当に勘弁してよ」  子どものような泣き声に、思わず溜息をこぼす。  憂鬱な気分に浸りながら、朝霧はその扉を開ける。
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