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その日、俺は紫の頼みで、霧島葵の監視をすることになった。いや、正確には監視という名の世話だ。もともとそんなつもりはなかったのだが、紫の頼みということで承諾した。
それにしても……と俺は思う。
なぜ紫は、あの依頼を引き受けたのだろう。
霧島葵にされたことを考えると、依頼を拒否しても問題なさそうだった。現に、霧島の両親も、そのことについて何も言えずにいた。それほどの罪を犯したと知っていたからだ。
それなのに……
ここに出てくる依頼とは、霧島葵の両親が、霧島葵が矢吹琴子に誘拐されたことに対して、助けてほしいとお願いをしてきたことについてだ。
俺が経営する何でも屋に、霧島の両親が助けてほしいと頼んできた。それが全ての始まりだった。
「あの……」
俺は今、紫と霧島が暮らす、部屋の一室にいる。
俺たちはこちらの世界に来てから、すぐに部屋を借りた。どこにでもあるアパートの2階。そこが紫と霧島の住む部屋。俺はその下の1階に住んでいる。もちろん1番奥の角部屋だ。
「あ、あの……」
「ん? 何だい?」
先ほどから黙っていた俺に、どう接すれば良いのか分からないのか、戸惑った様子を見せながら声をかけてきた。
「お名前、聞かせてもらっても?」
名前を聞いてどうするのだろう。
知って得をすることなんて何もーーいや、今後のためにも名乗っておこう。
「僕は蓮水忍。紫から君のことは全部聞いている。というか話させた。だから、良い子ぶっても僕は靡かないからね?」
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