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ーーふあぁぁぁ。
眠くてたまらない。
目をゴシゴシとしてみるが、眠いものは眠い。
ーー残り50分。
授業は1時間。
つまり、まだ10分しか経っていない。
それなのに、体感ではもう40分は経っていた。
こんなに眠くて、何の足しにもならない話を聞かされ続ける理由が、私には分からない。
つまらない。本当につまらない。
どうして、この世界中に存在する学生は、こんなつまらない話を、ただ大人しく聞いていられるのだろう?
こんな話、大人になったときに役に立つわけでもないのに。もしやそれを知らない?
もしそうだとしたら、ただのアホだろう。
いや、親が関わってくるのか。
そこで私は考えを直した。
勉強したくてしているわけでも、聞きたくて聞いているわけでもない。親に後々ぐちぐち言われるのが嫌で、こんなつまらない話を聞いているんだ。
ああ、納得した。
けれど、私は彼女たちと違って、話を聞く理由がない。学生は勉強をするものだ、というのも、大人の戯言に過ぎない。勉強などしなくても、生きていける。当たり前のことさえ分かっていれば、この世界では生きていけるのだ。
完璧超人人間なんて、この世界のどこにもいないのだから。
皆、どこかしら欠点があって、苦手なことがあって。だけどその欠点を補って生きていく。それが本来の人間としてのあり方だと私は思う。
けれど、このクラスは違う。
人の欠点を見つけて、嘲笑うことしかできない人たちが集まっている。
外れくじを引いたな、と私は思う。
中高一貫の私立の女子校に通っている私は、このクラスの人間のことは、入学式の時から知っていた。外部の人間は別のクラスになると、予め説明されていたからだ。
だから、知っている人しかいない1年なら、楽しく学校生活を送れると思っていたのだがーー
どうやら、それは間違いだったらしく、予想以上につまらない毎日を過ごしていた。何か劇的な変化がほしい。何か、楽しませてくれるような変化がーー
そんなことを、ずっと思っていた時だった。
勢いよく、階段を駆け上がってくる音が聞こえた。
その足音は、徐々に近づいてくる。
誰もそのことに気付いていないのか、授業を聞いて、ノートを取っていた。
皆がそのことに気付いたのは、それからすぐに、教室の前のドアが勢いよく開けられたからだった。
皆、びくんと肩を揺らしてドアを見た。
けれど、人が入ってくる気配はない。
「……!」
「……!!」
廊下からその声が近づいてくる。
「ねえ、廊下で誰か何か言ってない?」
誰かがそう言ったその瞬間、2人の人間が勢いよく入ってきた。
私たちは目を見開いて、驚くことしかできなかった。そんな私たちを置いて、入ってきた2人は勝手に会話を続ける。
「ほらほら! 私を捕まえるんだろう? 早くしなよ!」
「待ちやがれ、この……!」
「ふふふ。それで元運動部ってんだから、笑っちゃうよね? 帰宅部で且つ、両手が塞がってる人間にも追いつけないんだから。親が知ったら悲しむぞー?」
長い黒髪が、動きに合わせて踊り出す。
エメラルド色の瞳が笑っていた。
挑発をする女性の言葉通り、その手には手枷がしてあった。両手を塞がれているというだけでも、かなり走るのが大変になるだろう。
けれど、その女性はそんなことを気にした様子も見せずに、追いかけている方の女性の手をひらりと躱す。
「逃げ足だけが早いくせに!」
「何の取り柄もない人よりかは、幾分かマシだと思うけれど?」
「ふざけ……っ!」
避けて躱して。
それを繰り返している女の人に、私はなぜか目を奪われた。いや、この表現だと、私がその人に恋をしてしまったみたいになるからやめておこう。
正確にいうと、その女の人がなぜ手を拘束されているのか、なぜこの人たちのことを、自分はどこかで見たことがあると思っているのか。それが気になり、目が離せない、という意味だ。
そう、私はこの2人を見たことがある。
あるはずなのだ。
断じて、恋心を抱いてしまったからではないと、私は自分自身に言い聞かせる。
追いかけている側の体力がなくなってきたのか、肩で息をし始めた。
「あれれ? もう終わり? 随分とあっけなかったね」
余裕そうにそう言葉を溢したその時、教室に誰かが入ってきた。
追いかけられている身で挑発をしていたその女性は、その誰かを確認した途端、動きが鈍くなった。なぜ君がここにーー
そんな感情が、言葉にされなくても伝わってきた。
追いかけていた女の人は、その瞬間を逃さなかった。一気に距離を詰めた。
「……ッ! やばっ!」
相当やばいのだろう。
距離を詰められたことによって、少しバランスを崩した。追いかけていた女の人は、その一瞬の隙を突いて、追いかけられていた女の人のことを、押し倒した。
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