劇的な変化を求めたあの日

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 何故にこりと微笑んだのか、私には分からなかった。  霧島葵を視界に入れ、朝霧は言った。 「ああ、確かにこの時の霧島葵は……可愛くないな。うん、むしろブスだな」  ……え、今、とてつもなく失礼なことを言ったよね、この人?  いや、まあ……可愛いかどうかは、人それぞれの感性だから分からないけれど、流石にそこまでいう必要はーー 「ねえ、君は矢吹琴子のことは好き?」  その言葉に、全身の筋肉が硬直するのを感じた。  私は即答した。 「大っ嫌いです。一生好きになることなんてないです。あいつのことを好きになったら、その瞬間に死んだのと同じ。それくらいに、矢吹のことは嫌いです」  言い切った私に、朝霧は頷いた。 「私も矢吹のことは大っ嫌い。も私と同じ考えをしていてよかった」  ーー何?  思考が一時的に停止した。  もしやと思っていたが、それが本当だったなんて、誰が予想しただろう。  過去の私。それはこの私のことを指している。なら、目の前にいる朝霧紫は……未来の私。  ーー未来の私。  言葉的に聞こえはいいが、あまり良い言葉とは思えない。なぜなら、未来の私は手を拘束され、その状態で追いかけられ、押し倒されて首を絞められ死にかける。挙げ句の果てに、罵倒され、ナイフで腹を刺される。その上思い切り蹴られるのだから、良い未来とは言えない。  まあ、私らしいと言ったら、私らしい未来なのだが。別のルートのようなものはないのだろうか。  別世界だとか、そう言った話が好きすぎるせいで、すぐに現実味のないことを考えてしまう。 「まあ、私は未来のあなたです、なんて言っても納得するまでに時間がかかるだろうね。私もそんなすぐに納得してくれるとは思ってない。それより……に少し言いたいことがあるんだけど」  すくりと立ち上がり、朝霧は霧島の方へと歩いていく。  君、の対象が自分だと分かり、こっちの世界にいる霧島葵は、びくんと肩を揺らした。 「あはは。そんなに怯えないで。私は君に、忠告をしたいだけなんだ」 「……忠告?」  首を傾げる霧島に、朝霧は冷たく言い放つ。 「会話を聞いていただろうし、見ていただろうから分かっていると思うけれど、未来のあなたは悲惨なことになる。矢吹に拉致・監禁され、私に助けられる。君、今は矢吹琴子と一緒に、私の悪口を言って、学校生活を満喫しているでしょう?」 「そう、だけどーー」 「別にそれを咎めるつもりはないけど、友達選びはちゃんとした方がいいし、自分のしている行動に責任を持つべきだ。君は将来、私に匿ってもらわないと、生活できないところにまで追い込まれる」  先程それらを見せられたからか、その言葉にはとてつもない説得力があった。  朝霧は突き放すように言う。 「けれど、未来などどうとでも変わる。もし私が助けなかったら? 君は一生、矢吹の手の中で地獄を見る羽目になる。分かるかい? これは君のために言っている。私と仲良くしろ……とは言わない。過去の私のことが嫌いなら、それでいい。けど……自分のした行動はいつか自分に返ってくる。それだけは覚えておきなよ」 「そんなこと言われてもーー」 「実を言うとね、私は未来の君を助けたけど、正直に言って、初めは助けようだなんて思えなかった。乗り気じゃなかったんだよね」  大きく肩をすくめた朝霧に、霧島は目を見張った……
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