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狩人
黄昏れの森に銃声が響く。
煌めく弾道が狼の眉間に吸い込まれる。
走る勢いのまま四肢がくず折れた。
倒れた体が炭のように黒く壊れる。
地に張り付いた影を、
後から来る狼が踏みにじる。
「──…くそっ!」
狩人は小さく舌打ちし、装填してまた撃った。
狼が倒れる。別の狼が前に出る。
走りながら次弾を装填し、身体を回して撃つ。
幾度も銃声を響かせるうち、
前方で木々が途切れた。
拓けた場の中央に、丸太の家が建っている。
木々から飛び出した狩人は同時に身を捻り、
追ってきた二頭を素早い射撃で葬った。
更に数頭の追っ手を逃れ、
転げるように家の扉を押し開く。
閂を下ろすと同時に、
獣の体当たりが家を揺らした。
震動する丸太の壁に、狩人は背をつける。
まだ若者の域にある男だった。
顎髭を蓄えた顔立ちは素朴で、
深く青い瞳には少年のあどけなさすら残っている。
一方で、銃を構える身体つきは逞しい。
広い肩を厚手の茶色いケープで包み、
その裾は引き締まった腰のベルトで留めている。
作り上げたと言うよりは、
生活の上で自然に鍛えられた身体だった。
茶のズボンとブーツは土に汚れ、頭からは帽子が消えて落ち葉色の髪が掻き乱れていたが、外の気配を探る様子に恐怖や焦りの色はない。
板についた冷静さで外を伺う狩人の耳に、
やがてしわがれた声がした。
「──誰だい?」
狩人が一瞬はっとする。
銃口を下ろし、家の中に向き直る。
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