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乙女の血
「それじゃあ遅いです!
それに、師匠に何かあるなんて考えられません!
こんなに強くて格好いいのに」
「強くありません。格好よくもありません。
あなたがくっついてくる前の、火おこしにも慌てふためいていた野営を見せたいくらいです」
「私こそ、その時の師匠の元に駆けつけて、
火をおこしてあげたいくらいです!」
もはや何の言い争いかわからなかったが、
険しい師匠と頑なな弟子はにらみ合う。
剣呑な食事は御免だと、クリフは村の女達の喧嘩を仲裁する要領で割って入った。
「ま、まぁまぁ、無事に済んだんだ、
よかったじゃないか。
言いたいことを言い合うのは大事だが、
しばらくはこの三人きりなんだから、
あまり険悪になるのはよそう。なっ?」
少年の素朴さを残した顔は、
笑うとひどく人懐こいものになる。
大抵の人間の警戒心を解いてしまいそうな笑顔に、
その場の二人も争いを収めて振り返った。
しかし、
それはクリフの笑顔に和まされたからではなく。
「……三人きり?」
少女がきょとんと呟く。
「あなた、私達と一緒にいるつもりですか?」
違いますよねと続けるように、女性が訊き返す。
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