乙女の血

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「今の狼は、正確には狼ではありません。 土地によって魔物や妖怪と呼ばれていた “何か” が、狼達を食い尽くした挙げ句に化けたものです」 「…ああ。それはもう、知られたことだが」 「行動は狼そっくりですが、 大きな違いがひとつあります。 乙女の血に惹かれることです」 「…血?」 できましたー、と少女がシチューの皿を置き、 当然のように師匠の隣に腰掛ける。 師匠は意に介さぬように続ける。 「第二次性徴を迎えてから成人するまでの乙女の血に、今の狼は酔いしれます。 特に好ましい匂いを前にすれば、我を忘れ、 匂いの主に従属して共食いすら厭いません。 私は、その性質を利用しているのです」 「あんたの血の匂いが、狼共の好みってことか。 ……それじゃあ…」 クリフの眼が、師匠の隣の少女に向く。 赤ずきんと呼ばれた少女は、 そのとおりの赤いフードを今は首元に引っかけて、 自分の師匠から狩人へと眼を移す。 「はいっ。私の血も、狼を操ることができます。 だからこうして師匠について、 跡を継ぐべく修行に励んでいるのです!」 「跡は継がせません。 この子は実戦には向かないので、 良い村でもあれば置いていこうかと思っています」 「また師匠はそういうこと言うー!」 しかめ面で頬を膨らませる少女の隣で、 女性はすいとシチューをすくう。 空腹を刺激されたクリフも、 ぽつんと向かいに置かれた皿へ回り込んだ。 位置的に少し寂しいが、量は変わらない。
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