三人

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三人

「……それにしても、危なっかしい方法だな」 木のスプーンを取りながら、 クリフは呟いた。 狼を酔わせ、操る。ならばもし、 その酔いが途中で “醒めて” しまったら。 武器ひとつ持たない二人を見るにつけ、 クリフにはどうしてもその心配がわき上がる。 が、真向かいの女性は涼しい顔で、 「あの狼に安全な倒し方などありません。 あなただって弾が切れれば、先程の場面で私が間に合わなかったパターンを演じるのでしょう?」 「怖いこと言うな! 弾ならたくさんあるよ、 この家にも貯めてあるんだ!  アデル婆さんの送り迎えの度に、運び込んで…」 作ったばかりの墓を思い出したのか、 クリフの声が重いため息にかき消える。 沈んだ瞳でシチューをすくう彼に、 向かい合う女性も口をつぐんだ。 しかし、 「……うまっ! これ美味いな嬢ちゃん!」 シチューを頬張ったクリフの感動に、 無駄な沈黙だったとばかりに眼をそらす。 「ぅえっ? あっ、ありがとうございますっ?」 神妙な空気を察していた少女が、 突然の賛辞に混乱気味で礼を返す。 クリフは構わず、満面の笑みで続けた。 「なんだか優しい味がするよ。 こういう夜に出されると、沁みる。 …あったかいなぁ」 しみじみとした感想に、 少女もやがて嬉しそうに微笑む。 「まだ残ってますよ。 おじさん、良い人みたいだから、 おかわりしていいです」 「おじさん、って歳じゃないんだがな……そういや、助けてもらったのに名乗ってもいなかったか。 俺はクリフ=ハンツマン、東の村の狩人だ。 お嬢ちゃん、あんたは? それと、お師匠さんも」
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