狩人

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クリフが銃を構えた。 瞬間、老人の手から生えた爪がそれを薙ぐ。 こらえたものの引き金を引く余裕はなく、 ずれた狙いを戻すには距離が近すぎた。 狼がクリフの喉元へ飛びかかる。 クリフの脇を、何かが過ぎた。 肉を噛み潰す音が響く。 壁に激突したクリフは、 眼前の光景に眼を見開いた。 老人の手が空を掻き、 異形の頭が弱々しい断末魔を上げる。 その首に食いつくもうひとつの異形── 窓の西日を受けて、狼の長い尾が翻る。 狼が狼を食らう様など見たことがない。 呆然としたクリフは、 しかしすぐ我に返って銃口を上げた。 アデル婆さんに扮した狼はすでに息も絶え絶えだ。 もう一頭、今にもこちらを振り返りそうな獣の頭を狙い定める。 その照準が、またずれた。 「撃たないでください。あれは私の子です」 銃身に華奢な手が置かれている。 クリフは顔を横へ向けて、またも呆然とした。 仕切りの布をくぐり抜けて、 彼の肩ほどもない背丈の少女が進み出ている。 一見して、少女だった。 茶のフードからは耳の下で切り揃えられた黒髪が覗き、前を見据えるのは同じ色のつぶらな瞳。 フードと繋がったマントから細い脚が伸び、 膝から下だけがブーツで覆われている。 それでいて、 呼びかけた声は毅然としていた。 黒い瞳の奥に、赤い光が揺らめいている。 婆さんの身体に被さる狼が振り返った。 西日に獣の輪郭が霞む。 禍々しい煙のようなその姿で、 狼は現れた少女を振り仰ぐ。 少女もまた、 自身の胸まである体躯のそれを見つめ返した。 瞳の奥で赤い光が強まる。
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