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狼
「すまねぇな、アデル婆さん……
俺がもう少し早く来てりゃあ……」
カンテラの光の中、
ひざまずいたクリフが悔しげに呟いた。
彼の前には、
盛られたばかりの土が横たわっている。
手頃な太さの枝が立てられ、その前に、
空の籐籠が置かれていた。
一見して墓とわかる。
が、土の下には何もない。
狼に食われた者は骨も残らないからだ。
「あなたのお祖母さまでしたか」
クリフの背後で、
カンテラを提げた女性が問いかける。
森には夜の帳が降り、
西の空だけが残照でほのかに赤かった。
クリフは立ち上がりながら首を振る。
「血縁はない。
だが、俺も婆さんも同じ東の村の出で…
婆さんは薬を作って暮らしてたんだ。
狼共がおとなしい初夏から秋には、
この家で西の森の薬草を集めてた……
いつも秋が終わる頃、俺が迎えに来てたんだ」
クリフの手が籐籠に触れる。
灯りを照り返す飴色が、
亡き主人に長く使われていたことを表していた。
クリフの顔にやりきれない表情が宿る。
「狼が食らったものに化けるには」
そこで、女性の声が響いた。
クリフが顔を上げる。
「その相手を、完全に消化する時間が必要です。
…もう少し早い到着程度では、
どのみち間に合わなかったでしょう」
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