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13時を告げる広場の鐘が、ゴーン、ゴーン……と鳴り響く。
ドクンッと痛いくらいの大きな鼓動に胸を打たれながらも、俺はベンチから立ち上がれずにいた。
そんな俺にノゾミさんは歩み寄ってくると、垂れた横髪を耳に掛けながら柔らかい笑みを浮かべて顔を覗き込んでくる。
「これはこれは、配達人希望者との待ち合わせの為に広場来たのですが偶然ですわね!
……いえ、もしかして運命かしら?」
「っ、……」
「《なになに〜?ツバサ、この可愛子ちゃんと知り合い?!
紹介してよ〜!ねっ?紹介して〜〜〜!!》」
興奮したジャナフが肩を揺すりながら問い掛けてくる。
が、気不味い、まさかの再会に驚き戸惑う俺は、彼の問い掛けに答える余裕はない。動揺したまま何も話せずにいると、それを見たノゾミさんがフォローに入る。
「《ふふっ、"可愛い"ですか?どうもありがとうございます》」
「《!……ドルゴア語!》」
「《申し遅れました、私はノゾミ。夢の配達人の秘書をしております。
失礼ですがジャナフ様、でお間違いありませんでしょうか?》」
「《はいはい!ボク、ジャナフでーす!
君が夢の配達人の秘書?うっひゃ〜!なら、君がボクの事面接してくれるの〜?》」
ノゾミさんの言葉に、ジャナフはますますテンションMAXという感じだった。
けれど、その時すでに俺の意識は前方にいるノゾミさんのもっと先。"ある人"の方へと集中していた。その人とは、……。
「ーーおやおや、今度の新入り候補はずいぶんと元気が良いようですね」
ふふっ、と笑いを含んだ口調でそう言うのは、長い茶髪を後ろで束ねて、薄い黒のサングラスのような眼鏡を掛けた俺の父さんと同じ年齢くらいの男性。目の不自由な人が使う白杖を着きながらゆっくり歩み寄ってくるこの人はこそ、夢の配達人の現最高責任者であるシュウさん。
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