第5章(5)ツバサside

4/5
前へ
/193ページ
次へ
*** シュウさんと会ってから1週間後ーー。 今日は終業式。 明日から夏休みで、学校は昼前に終わった。 「明日から何する?」と、嬉しそうに騒いでいるクラス内で、きっと暗い表情をしているのは俺だけだろう。 休み。正直俺にはあまり有り難くない。 何も考えたくない。何かを考えてしまう時間が嫌だ。 やる事が尽きなくて、自分の事なんて考えられないくらい忙しい時間が俺は今1番欲しかったから……。 それでも、日常に逆らう事は出来ない。俺は荷物をまとめると、帰ろうと教室を後にした。 今朝一緒に登校した際「今日私達は用事があるから先に帰ってて〜」とランに言われたから、今日の下校は一人きり。 とても静かだ。 こんな時に実感する。ランとライの存在の大きさを……。あの二人が傍に居てくれるだけで、俺の心は軽くなるのだと。 独りで、居たくないなーー。 思わず心の中でそう呟いていた。 すると、校門を潜った瞬間。そんな俺の心の呟きに答えるように……。 「ーーツバサ!」 ……え、っ? この場に居る筈のない人物の声が、俺に聞こえた。 その声に、耳を疑う。信じられなくて、また瞳の能力(ちから)が起こした幻聴なのではないか?と思う。 ……けど、聞き間違う筈がない。 "彼女"の声だけは、俺は絶対に聞き間違う筈がない。前夜祭の日に名前を呼んでもらったあの時、しっかりと刻まれて忘れられる筈がなかった。 俯いていた顔を上げたその先に居たのはーー……。 「レ、ノア……?」 何故かうちの学校の制服を着て、髪を左右に分けて三つ編みして、伊達眼鏡を掛けた、レノア。 「えへへっ。約束通り、会いに来てやったぞ!」 そう言って、ニッと歯を見せて彼女は微笑った。 ーーああ。 俺は、なんて馬鹿だったんだろう? レノアの笑顔を見た瞬間、俺の孤独はあっという間に消えた。そして、悟った。 何を否定していたのだろう? 彼女を想うこの気持ちは、唯一無二の愛でしかない、とーー。 俺はそれを、ずっと認めたらいけないと思っていたんだ。 俺にとっての1番は母さんでなきゃいけない。だから、いつまでも子供のままで居て、他の誰も特別にしちゃいけないんだって、自分の成長を止めていた。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加