第6章(1)レノアside

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「困ったお兄ちゃんだよね〜?行き先を女の子に(ゆだ)ねるなんて、ダメだよね〜?」 それは場を和ませるように何気なく言った言葉だった。胸に抱いた白うさぎに向かって、赤ちゃんに語りかけるようにした時の事。 ツバサのまさかの返答が耳に届く。 「……仕方ねぇだろ。デートなんて、した事ないんだから」 「!っ、……え?」 「デートで行く所なんて、分かんねぇよ」 「ちょ、ちょっと待って……!」 その言葉に、さっきまでの気持ちなんてあっという間に吹き飛んで私は振り返る。 今、デートした事ない、って言った?? 信じられなくて、胸がドキドキと弾み出す。 だって、背も高くて、綺麗な顔立ちで……すっかり素敵に成長したツバサ。絶対にモテて、付き合うまではいかなくても、もう誰かとデートしてしまったと思っていた。 「ほ、本当?」 「?……何が?」 「デ、デート……今までした事ない、って」 「……。馬鹿にしてんのか?」 「違うよ!……そ、それなら、嬉しいな……って、思って」 半信半疑で、今度は私が視線を泳がせながらごにょごにょと尋ねる。そんな私と彼の様子を、白うさぎが頭に?マークを浮かべた感じで交互に見つめていた。 恥ずかしいような、期待するような感情になかなか顔を見られずにいるとツバサがゆっくりと口を開く。 「……する訳ないだろ、お前以外と」 「!っ……」 「正真正銘、今日が……。今が初デートだよ」 「ッ、〜〜……!!」 恥ずかしそうに、不器用に紡がれたその言葉。 そして、顔を上げた私の瞳に映るのは今まで見た事がない表情をしたツバサ。顔も、耳まで真っ赤にして、口元を手で隠すようにしながら、視線を伏せて明らかに動揺している。 っ、……嘘! やだ、っ、何これ?ツバサが、可愛い……!! さっきまでの可愛い、とは明らかに違う。 胸がきゅ〜ん、っと締め付けられて、思わず抱く腕にも力が込もってしまい、驚いた白うさぎは私の腕からぴょんっと逃げ出した。
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