第6章(2)ツバサside

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*** 「あ〜楽しかったぁ〜!」 アクセサリーショップを出て広場に向かう途中、レノアは両腕を空に向かって伸ばしながら言った。清々しい声と表情で。 気持ちは歩む速度に表れるものだ。一緒に店を出た時は間隣に居た筈なのに、いつの間にか彼女は俺の3歩程前を歩いている。今はまだ速度を早めて手を伸ばせば触れられるけど、このままでは、きっと……。 「ツーバーサ! どうしたの?歩くの遅いよ、疲れた?」 くるりと回るように振り返って、レノアが微笑った。子供の頃はいつも俺が前を走って彼女の手を引いていたのに、いつの間にか逆転してしまった立場。 子供の頃(あの頃)に戻りたいーー。 俺はずっとレノアの少し前を歩いて、彼女に手を差し伸べてやれるようなカッコ良い存在で居たかった。そうなれると信じていた。 母さんにとっての、父さんみたいにーー……。 「はいっ。これ、あげる!」 「!っ、……これ、って……」 ボーッとしていた俺はハッとする。 レノアが掌に乗せて笑顔で差し出してきたのは、俺が彼女にあげた夜空のブローチと同じガラス細工で出来たペンダントだった。 「店主さんにお願いしてね、ほんのちょこっとなんだけど私が手を加えたんだよ?」 驚く俺に、照れながら彼女は言った。 頑張って、やけに真剣に作業してるって思ったら、それは俺の為だった。 「遅れちゃったけど、18歳のお誕生日おめでとうっ! ツバサが生まれて来てくれて、私はとっても幸せです!」 「っ、……」 真っ直ぐで素直なレノア。 表情も、言葉も、気持ちも、触れる度に痛い。 小遣い叩いて、一生懸命選んで、俺の今の精一杯をあげたつもりだったのに……。彼女は簡単に、俺の上を行った。 プレゼントも、言葉も……。いとも簡単に。 情けないやら、悔しいやら、恥ずかしいやら……。色んな感情でぐちゃぐちゃだった。 そんな俺の気持ちに気付いているのかいないのか、いつまでもプレゼントを受け取ろうとしない様子を見て、レノアはそっと自らの手でペンダントを首に掛けてくれる。そして、満足気に微笑む。 今まで以上に、彼女が眩しいーー。 その表情を見て、俺はゆっくりと口を開いた。 「ツバサ、私……」 「ーーレノア、もう終わりにしよう」 これ以上、表情も、言葉も、気持ちに触れるのも辛い。 だから今度こそ、ここで終わりにしようと思ったんだ。
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