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「レノア・アッシュトゥーナでも、女神と呼ばれるレノアーノ様でもなく……私は、ただの"レノア"として生きる。
誰に言われたからでもなく、誰の為でもなく、私は私の為にそうしたいの」
「っ、……」
心の底からの想いを乗せたレノアの決意の言葉に、薄っぺらな嘘で追い返そうとしていた俺の言葉を言える筈もなかった。
畜生、畜生、畜生ッ……!!
全身の血が沸騰したみたいに、嫉妬の感情が高まる。
目の前にいる彼女は、俺がなりたい姿そのものだった。
心が叫ぶ。
俺がそうしたかった。俺がそう言いたかった。……と。
ーーー俺が好きなのは、アッシュトゥーナ家の令嬢でも、みんなから女神と呼ばれるお前じゃない。
ただのレノアとして、ずっと傍に居てくれーーー
お前を抱き締められるくらい大きくなって、約束通り白金バッジの夢の配達人になって、迎えに行きたかったんだ。
そして、誰よりもお前を笑顔にしたかった。
狂おしい程の感情に呑まれてしまいそうだった俺。
けど……。
「ーー私はずっと、ツバサと"半分こ"して生きて行きたい」
言えない叫びを、心の中で駄々を捏ねるように騒ぎ立てる俺に、レノアが言った。
"半分こ"ーー。
懐かしいその言葉に、心の中で騒いでいた幼い俺がスンッと鎮まる。
彼女は気付いていた。
俺の中に在る、時間が止まったままの15歳の俺に……。
自分の感情を押し込め続けた結果に蓄積した、重い重い足枷に……。
「今まで、何も知らなくてごめんなさい。何も聞いてあげられなくて、ごめんなさい。
辛い時に傍に居てあげられなくて、本当にごめんね」
俺の手を両手で包むように握り締めながら、レノアは俺の心の奥底に語り掛けるように、優しい言葉を掛け続けてくれた。
そして、道を見失っている俺に寄り添って、大切な事に気付かせてくれる。
「失ったものも、過ぎてしまった時間も、もう取り戻す事は出来ない。
けど……もう一度。一緒に始めて、一緒に生きよう?」
「……一緒、に?」
一緒にーー。
レノアにそう言われた瞬間。自分には絶対に踏み込めないと思っていた未来と言う名の新しい世界が、すぐ目の前に広がっているように感じた。
ああ、そっか。やっと分かった。
目指していた未来に、俺はちゃんと進んでいたんだ。
父さんを失ったあの日に、時間は止まってしまったと思っていた。……でも、違う。
確かに思い描いていた人生とは違っていたけど、あの日俺が選んだ人生は、まだ目指した未来に繋がってる。
だって、その証拠に……。
まだ目指した未来は目の前に在るのだからーー。
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