第6章(3)ツバサside

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あの日の俺が止まったままなんじゃない。 今の俺が今を受け入れられず、あの日の俺にいつまでも未練を持ち続けていただけ。手探りの未来に怯えて、上手く進めないのをあの日の自分のせいにしていたんだ。 ダメだったのは過去の俺ではなく、今の俺だ。 今の俺が振り向いてばかりで前を向いていないから、だから……、……。 「ツバサ、大好きっ」 「レ、ノア……ッ」 「ずっと、一緒に色んなものを半分こして生きていこう!」 ようやく長い眠りから醒めたような俺に、レノアが言った。 彼女の言葉が優しく心に沁み渡って、古傷を包んでくれるように暖かくて……。俺は、やっとその言葉を素直に嬉しいと感じた。 見失っていただけで、まだ消えた訳ではない。俺が彼女へと繋がってる人生(みち)は……。 俺は、レノアと一緒に生きて行きたいーー。 「っ……レノア、俺……」 レノアと一緒なら……。彼女と"半分こ"して生きられるなら、もう一度頑張れるーー。 そう思った。 しかし。(はばた)こうとする小鳥の翼を手折ろうとする"敵"は、もう間近まで迫って来ていた。 まるで飛び立つ瞬間を狙う獣のように、絶好のタイミングで……。 ーー……ッ?! 『危ない』と、直感が働いた。 俺は咄嗟にレノアの手を振り解くと彼女を突き飛ばし、左腕を自分の顔横に構えて力を込める。 「っく、ッ……あッ!!」 ドガッ!!と防御した左腕に強い衝撃を受けたのはその直後。まさに間一髪だった。 「っ、……ツバサ!」 突き飛ばされたレノアが尻餅を着いたまま心配そうに俺の名を呼んでくれる。 でも、俺はそれどころじゃなかった。 防御して衝撃は軽減出来たもののその威力はかなりのもので、受け身を取った俺は最初に居た場所から五メートル程離された場所で地面に片膝を着いていた。 っ……今の、蹴り……まさか、ッ…………。 衝撃を受けビリビリと痺れるように痙攣している左腕を右手で押さえながら、俺の頭の中を過ぎる懐かしい記憶と困惑。 油断していたとは言え、攻撃を受ける寸前まで気付けなかった完璧な気配の消し。それに、相手の頭部の高さまでジャンプして完璧に狙ったあの飛翔蹴り……。
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