序章 ツバサside

6/6
前へ
/193ページ
次へ
「心配すんなよ。俺は必ず、会いに行ってやるから」 この頃の俺は子供で、何も知らなかった。 「俺、夢の配達人になる!」 大人になる意味も、自分の未来も、自分の運命も、何も……。 「知ってるだろ? 夢の配達人の白金バッジになれば、どんな大金持ちや身分の高い人にも会える」 だから、何も信じて疑わず、残酷な事を言った。 「俺、絶対に白金バッジの夢の配達人になるからさ!そしたら、レノアが俺を雇ってよ!」 君の笑顔を見たくて、ただそれだけの為に口にした約束。 「あと数年の辛抱だ! そしたら俺は、ずっとずっとレノアの傍に居る!」 「……っ、本当?」 「ああ!絶対に絶対に、俺が護ってやる!」 「……うんっ!約束、だよ?」 「ああ、約束だ!」 ようやく笑顔になって顔を上げたレノアと、俺は指切りをした。 絡み合う小指と小指の温もりでさえ愛おしいものなのだ、と……この時の俺はまだ知らない。 夕陽を浴びて赤茶色の髪を輝かせる女神のような少女が、自分の唯一無二の存在だって事も……。 子供だったけど、この時に自分の中に湧き上がった気持ちに嘘偽りなんてなかった。 彼女は信じてくれないかも知れないけど、俺は……。 …… …………。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加