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第一章 捨てる生命
「ここで俺は死ぬのか…」
見慣れぬ土地での任務
これが最後の任務になることは
薄々気づいていた。
大韓民国ソウル市内
PM23:07
「今回の要人はソウル中心部の高級ホテルに滞在している。部屋番号は…」
スマホを切りジャケットの中にしまい込んだ。
ホテルのロビーには休暇やバカンスにきている装いの客がひしめく。
ガラス張りのエレベーターからはソウルの街並みが星の様に光り輝いていた。
最上階のスイートルームに続くフロアは静まりかえっていた。
要人が宿泊している割に、警備の姿が全くいない。
フロア管理の従業員すら歩いていなかった。
静まり返る最上階。
何か違和感がー…
こんな時の勘は外したことがなかったが
扉を叩いた瞬間
鈍い発泡音と共に脇腹を銃弾がかすめた。
サイレンサーをつけた銃口から2、3発壁側に
めり込む。
やはり罠だったか
痕跡が残らない様に依頼を遂行するのが暗殺のやり方なのにわざと銃は使わない。
ターゲットは俺か。
体制を立て直しその場を走りだした。
さっきの銃撃戦で肋に受けた傷から
血がポツリ、ポツリと垂れている。
明洞の繁華街
時間帯なんてお構いなしに、周囲には人が溢れている。
肩がぶつかり合う程の人混みをかき分け、
暗く狭い路地裏へ滑り込んだ。
「…こんなに走ったのは久しぶりだな。」
香港マフィアの頭に拾われて、11年がたった。
当時はまだ子供だったが、
ありとあらゆる暗殺術を命がけで叩き込まれた
その腕を見込まれ
政治的に倫理的に消すことが不可能な人物を
秘密裏に抹殺してきたのだ。
その鮮やかな任務の遂行ぶりには、諸外国の要人達からも次々と依頼が絶えなかった。
報酬にしても俺よりも腕の立つ者はいなかった。頭からも厚い信頼があったはずだった。
だが、長く居過ぎたんだろう。
疎まれ、蹴落とそうなんて裏切り行為は日常茶飯事だ。
はッ…
こんな時にでも笑えるんだな。
へたり込んだ身体は力が入らなかった
しばらく黙り込んだが、傷口を押さえ込み
薄暗い路地裏を歩きだす。
どの道、死しかなくてもここでは死なない。
死に場所くらい自分で決める
そんな考えが頭をよぎった。
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