第三章 新たな世界

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「レインは背が高いからこの服がいいかな?」 遅めの昼食を取った後に、着物の丈を合わせるように胸に当ててきた。 まるで着せ替え人形だ。 俺は楽しそうに選ぶウォルを横目でみながら黙っていた。 服を着るのを手伝うと話してきたので、1人で着るからと、素早く奥で着替えに走った。 あれから4日が経つ。 包帯を付けていた時は男だと思っていたから、何とも思わなかった。 いろいろ分からない俺に、なんでも手伝おうと世話を焼こうとしてくれるのはありがたい。 俺よりもずっと年下かと思ってたが、今年20歳になるらしい。 正直、他人と関わる事をしなかった俺にはその距離感に困惑する。 部屋へ戻ると、いつの間にかウォルの姿がなかった。 「診察かな?」 土間を抜けて廊下を行くと、 ウォルの診療所の部屋がある。    扉が無い代わりに、カーテンの布で仕切られていた。 そこには、包帯や薬瓶、治療に使われる器具、診察台がある。 そのすぐ横で、ウォルが村の人を治療していた。 廊下には5〜6人ほどの村人が順番を待っている ウォルはヒョンゴ村の医師だ。 診察や他に近くの村や町へも往診にも行く。 貧しい者や子供、年寄りからは代金をもらうことなく、的確な診断と治療を施してくれると近隣の村や町では有名らしい。 「あ!レイン、そこの薬棚から薬出してくれる?」 「これ?」 「そうそう!ありがとう」 まだどうしていいのか答えを出せずにいたが、ただ黙っている訳にいかず、しばらくはウォルの手伝いをする事にした。 「助かるわ」 薬棚を整理しながらウォルが言った。 村の人々は初め、ブロンド・碧眼の俺をみて驚いてはいたが ウォルが命の恩人だと説明してくれたおかげで、後ろ指を刺される事もなく過ごせている。 特に彼女は突然現れた俺を気味悪がらず、根掘り葉掘り聞き出そうともせず、ごく普通に接してくれていた。 すべてウォルの配慮のおかげだ。 黙々と薬棚を片付けていると、ウォルが言った。 「街へ買い出しに行かない?半夏ももう少ししかないし…」 「半夏?あぁ腹痛用の?」 「決まりね!」 今日の診察が終わったら!と半ば強引に言い、診療所の中へ足早に戻っていった。
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