第四章 誰かの為に

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第四章 誰かの為に

さっきの薬材店はウォルといた飯屋の目と鼻の距離だ。 付近まで行くと、薬材店の店主が店じまいの支度をしていた。 俺は事情を話し、入れ忘れの薬草の麻袋を受け取った。 店主は、先生とこからはいつも同じ注文しか受けておらず、間違えなく品物を入れたはずだったと話していた。 事前に準備はしていた為、なぜ入っていなかったのかと店主は首を傾げていた。 何だろう。 話しに何か違和感を感じる。 店主が嘘をついているようには見えない。 ハッとして、 急いでウォルのところへ走りだした。 「ウォル⁈」 店には2〜3人の客と、女主人がいた。 「…ウォルはどこです?」 店の中にウォルの姿がない。 「あぁ兄さん!先生はさっき…」 女主人は俺が出てすぐ、突然入ってきた奴婢の子供に先生が連れられて出て行ったと話した。 その子供の親が今にも死にそうだから助けて欲しいとウォルに懇願していたそうだ。 何かおかしい。 女主人にどっちの方向へ行ったか聞き、 ウォルを探しに店を飛び出した。 辺りは更に暗闇に包まれ始めてきた。 街から離れた場所は灯りも少なく、 建物の外には人もおらず静かだ。 ウォルが行った方向は聞いたものの、 この入り組んだ街の中のどこへ行ったのか… 道の真ん中でしばらく考え込んでいた。 「……紫雲!」 「…やっと呼んだか。レイン。」 頭の中にフッと紫雲の声が響いた。 「…神様なんだろ?力を貸してくれ!」 紫雲が口の端を釣り上げ、笑っているのが感じとれる。 「…神に命令するのか?」 「そうだ。…助けてくれ。」 ククッと笑い声が響いた。 左手首の下が熱い。 その瞬間、手首に巻かれた水晶が光を放った。   「…指先に神経を集中しろ」 言われるがまま左手に全神経を集中させ、 自然と地面に手を触れた。
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