第四章 誰かの為に

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手をつくと、鮮明に頭の中に映像が流れる。 白い医服のウォルと、 奴婢と言われるボロボロの服を着た、小さな子供だ。 確かにこの先を歩いて行った形跡がある。 「もっと集中しろ。あの娘に危険が迫っている」 紫雲が言った。 「…わかった。」 更に意識を集中させる。 見えてきたのはこの先の船着場だ。 胸騒ぎがする。 急いで走り出した。 ー…「これが治癒の能力を持った娘か」 船着場にある、 漁師が使う道具小屋から声がする。 どうやらただの人攫いではないようだ。 人数は4人ー… 「もうすぐ迎えの船がつく、周りを警戒しろ」 他の男達に指示を出していた。 小屋の外の長い葦の中で身を潜めた。 こっからはウォルが無事なのか確認出来ないが、あの小屋には確実にウォルがいる。 「何か武器は…」 流石に素手には限界がある。 一発で仕留めるならば、武器は必須だ。 今はナイフすら手元にない。 「いちいち雑念が多い奴だ…」 「武器がなければ無理だ!」 焦りを隠せない俺に紫雲が言った。 「我は水と雷を司る神… 今の其方ならば我の力が使える」 相手が何を企んでるかわからないが、 今は数分の迷いが一刻を争う。 指先に神経を集中させた。 一瞬の出来事だった。 指先から何かが強烈な光と音をたてて 鳴り響いた瞬間、 黒い装束を着た男達はその場にバタバタと崩れ落ちた。 なんだ、何が起こったのか… 小屋の扉をあけ、倒れた4人が気を失っているのを確認し、ウォルにかけよった。 「ウォル…無事か?」 手首を縄で縛られ、 口には猿ぐつわをされている。 暗がりだが俺の声に気づいたようだった。 辺りを見回し男達が動かないのを確認しようとした。 小屋の中に焼け焦げた臭いが広がる。 肉が焦げた臭いとも、なんとも言えない異臭が漂っている。 さっきの光が…? すぐにここから出ないと。 口元を腕で押さえながら ウォルを抱え、急いで小屋を後にした。
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