第四章 誰かの為に

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夢中で走り、気づけば灯りが煌々と光る路地へでていた。 その先には、さっきまで居た飯屋が見える。 息を切らしながら中へ駆け込んだ。 「兄さん!先生大丈夫だったかい?」 女主人が急いで駆け寄ってきた。 「すみません…ウォルをお願いします」 わかったと、近くに居た客と一緒にウォルを奥へ運んだ。 体の倦怠感が酷い。 左腕も痺れて上手く動かせない。 その場に座り込んだ。 あの黒装束…盗賊じゃなかった。ウォルを狙って? しばらくすると、部屋から女主人が出てきた。 薬を嗅がされていたのか、しばらく眠っていたウォルの意識が戻ったと話した。 「飯屋の2階が宿場になってるから、先生も兄さんも今日はここで休んでいきな」 そう言って階段を降りていった。 様子を見に、扉をノックして部屋へ入った。 「…レイン」 ウォルは体を起こしてベッドへ座っていた。 「あのね、急患みたいだったから…」 「なんで勝手について行ったんだ!今頃死んでたかもしれないんだぞ‼︎」 突然大声をあげた俺を驚いた表情でみていた。 こんな事を言うつもりじゃなかった。 助けて欲しいと懇願されて、ウォルが医者として行かないわけがない。 それだけ彼女は優しい心を持っている。 本当に腹が立つのは己の弱さの方だ。 紫雲が居なければ俺は何も出来なかった。 「ごめんッ…」 「レイン待って!」 部屋を出ようとした時、 ウォルが左手を掴んできた。 「手…怪我してる」 灯りに照らされたウォルの頬には、攫われた時に打たれた様な跡があった。 無意識にその頬にそっと触れた。 「ごめん、怖い思いをさせて…」 俺の手に自分の手を重ね、首を横に振った。 きっと心細かっただろうに、自分より怪我した人をいつも優先にする。 この世界では俺は無力だ。 どうしたらいい? 紫雲が俺を生かした理由がウォルの存在なのではないかと、彼女をみながらそう思った。
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