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家の方からウォルが何か大声で叫んでいる。
「もうそんな時間か」
師匠はやれやれと言った顔だ。
「ちょっと‼︎まだ本調子じゃないのに何やらせてるの、おじいちゃん‼︎」
普段「師匠」を「おじいちゃん」と呼ぶ時は大抵怒っている時。
左腕が完治していないから無理をするなと、かなり釘をさされていたからな…
治癒の力を使えばすぐにでも治っていただろうが、力はウォルの体力を奪う為、極力自分で治すと俺から断った。
「今日は一段と鬼の形相だな」
と、師匠は笑っていた。
その横で俺は、今日も一段とお説教が鳴り響くだろうとため息が出る。
疲労感でフラつく脚を引っ張りながら、
ウォルの待つ家へ歩いていった。
土間ではウォルが昼食を運んでいた。
「もう!あれだけ何回も注意したのに」
ドンッ
昼食の腕を強めに置いた拍子に、汁が卓上に飛び散る。
今日は一段と綺麗な顔が恐い。
お説教しながら腕をみせなさい!と左腕を診察し始めた。
最近はお互い打ち解けてきたのか、いろんな事を話す様になっていた。
高麗の歴史や文字に関しては、ウォルが先生になって暇な時間に教えてくれた。
かわりに、俺の住んでいた世界がどんなところだったのか、
ウォルは興味津々の眼差しで聞いてきた。
お互いを理解し始めたからこそ、心配させている表情をみて申し訳なく思った。
そんな事を考えながら、向かいに座った彼女と目が合った。
ウォルは急いで立ち上がると、残さず一杯食べて!と、
頬を真っ赤にし、急足で部屋を出て行った。
「…顔真っ赤だけど、どうしたんだ?」
「其方のおかげだな。ウォルファの表情がとても良くなった。」
「俺…ですか?」
「都城を離れてしばらく経つ。
ここの環境に慣れ医師として仕事をするようになってからやっと人らしさを取り戻してはきたが、どこか心を閉ざしてる所があってね。」
そう話す師匠の顔はどこか、寂しげだった。
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